beach storyのお話 22
車の中でも俺たちの会話はほぼ無言の状態だったけど
それぞれ色んな事が頭の中を駆け巡っていたと思う。
俺もそうだけど、みんな昨日まで一緒に楽しく仕事を
して、仲良くしてた仲間が突然いなくなるという事が
初めての経験だった。ドラマや映画などではあるような
話だけど、実際にこんなことあるなんて、まさか自分が
こんな経験をするなんて誰も思っていなかった事だから。
いっ君の家には、色んな人が出入りし、涙を
流していた。想像以上の重たい空気が伝わってくる。
突発で来たものの、なかなか足が動かない。
いざとなると、なかなか踏み出せないし、
そんな事を気にし始める自分も情けなかった。
正直、いっ君の姿をみるのは、恐かったしやっぱ
受け入れたくないけど周りの空気が彼の死を
証明していることが伝わってくる。
突然やってきて、どの面下げて行ったらいいのか。
俺たちが来たら、本当に迷惑なんじゃないか。
もしかして最後に一緒にいた俺たちは家族の方に
恨まれてるんじゃないか。
今回の事に限らず、人は自分がいざ踏み出しにくい
状況になると無理矢理正当化したような言い訳を
考え始め、身近の分かってくれそうな人達に同意を
求めたりし、踏み出すべき所を踏め出せない事がある。
俺もその1人で、玄関に行くまでに数十分はかかった。
玄関で一声かけ、いっ君のお父さんが涙を溜めて
出てきてくれ、棺まで案内してくれた。
「おまえの友達が来てくれたよ…」
棺の窓から、いっ君の顔が見えた。
俺は死んだ人間を見たのは人生で2度目。
初めては、寿命で逝った俺の爺さん。
寝ているかのような綺麗な顔をしていたけど
いっ君は予想を超えた痛々しい傷後が
顔にも残っていて言葉を失い、立ち尽くしたまま
いっ君を見て家族の方々とは、何も話すことは
できず、いっ君の家を後にした。
当然、帰りの車の中の俺たちの会話はなく
ホテルに戻って来て、マネージャーに車の
鍵を返して、それぞれが無言のまま、部屋に
帰っていき、俺は一晩中1人で泣きながら
これまでの事をが後悔になっていった。
こんな思いをするために家を出たんじゃなかったのに。
何が自分探しの旅?
俺がここに来ていっ君と出会わなければ死んでなかった?
「いったい、俺は何をしているんだろう……」
………………………………
それから3日、4日が過ぎた
あの夜の翌日には、いっ君の葬儀が行われ、
そんな後悔がずっと頭から離れずに、仕事は
いつも様に続いて、今度は普通に仕事をしている
みんなを見て信じられなくなり始めた。
どうして、いつも通りの顔で仕事が出来るんだよ。
そして、俺の気づかない所でとうとう関係のない
お客様にまで迷惑をかけてしまい、
マネージャーと料理長に呼び出された。
内容は、宿泊されていたお客様からのクレームで
あきらかに無愛想な顔で、雑な料理の運び、
歩き方もだらしないスタッフがいたとの事。
そのスタッフの容姿や時間帯など見れば
完全に俺の事だった。
料理長が怒りを押さえながら話して来た。
料理長:「お前がどんな辛い目にあろうが、
お客様には関係ない事なんだよ。
他の皆も辛いのは同じでそれでも
やってるんだ。」
俺: 「ってか、あんな事があって皆なんで
そんな普通に出来るんすか…?」
料理長:「仕事ってのは常に普通にきちんと
やるもんで仕事中は、顔にも態度にも
出さずにやるのがプロなんだよ。
あのスタッフは辞めさせるべきだって
言われてるんだ。」
俺: 「………」
マネージャーは相変わらず黙っていた。
料理長は、ため息をしてからまた話し始めた。
料理長:「お前がといっ君が仲良かった事は、
もちろん知っているし、気が落ちる
のも、もちろん分かる。それは我々も
同じなんだ。今回のような事でなければ、
お客様の言う通り、この場でお前を首に
しているところだ。
明日から仕事をきちんと頑張るか、
今日で、ここを辞めるかどちらかを
選んでくれ。
こちらから言える事はそれだけだ。
今日はもう仕事を終わりにして、続けるか
辞めるか考えて夜までには決めてきてくれ」
俺: 「…分かりました…。ご迷惑かけた事は
申し訳ありませんでした…」
一言、頭を下げてその場を後にした。
なんかもう辛れぇな………
なんとなく埼玉の地元が恋しくなり、
仲間に電話をかけた。
「story23に続く」
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